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渡米生活。(日記)

渡米生活。本家から切り離しました。あまり渡米生活に関係のないプログラムネタや音楽ネタなど。

レンタル楽譜の値段

どーしてもぶっちゃけたい心境に抗えなかったので、書いてやります。

吹奏楽の)レンタル楽譜が高い、という人。
気持ちはわかります。たしかに販売楽譜より高いです。

でも!!

高い、出版社&作曲家がレンタル楽譜でボロ儲けしている、という結論に飛びつく前に、頼むから簡単な小学校のかけ算をやってみてチョーダイ!

コンクールに出る人なら、ある曲がどのくらいの頻度で演奏されるか分かりますよね。
既に著作権切れの曲は除外。著作権が現存する現代作曲家の曲です。
100回も演奏されればヒット曲と言って良いのではないでしょうか。
地区予選から全部あわせて、300回も演奏されたら、「またこの曲!」ってレベルでしょう。

で、この100回、販売楽譜で演奏したとします。楽譜は2万円程度で計算します。

経費のうち、かなりの部分を占めるのは勿論印刷代です。吹奏楽の楽譜なんて、何千も印刷したって売れませんから、少部数発行になってどうしても印刷コストが高くなるのです。

で、出版社がJASRAC著作権使用料としておさめるのは、販売価格の10%×部数です。何年も在庫かかえて、宣伝広告も打って、ってやらなくちゃならないんだから、それ以上払ったら赤字になるでしょう。

JASRACは、その10%から20%分の手数料+消費税を差し引き、作曲家に分配します。

というわけで、作曲家に入る印税収入は(100部発行されたとして)、15万程度。(※実際にはこんな小ロットはコスト高過ぎて刷れないと思う)
しかも、これは、日本中の演奏団体が、絶対に違法コピーをしない、という前提のもとでの数字です。

どうですか?
数年に一度、書けるかどうかのヒット曲でも、作曲家の収入一曲、一年あたり15万ですよ(笑)。
サラリーマンの初任給一ヶ月分(手取)と同じ。
まあ、かなり荒っぽい計算ですが、そんなに実情と違わないと私は思います。


これが、レンタル楽譜になると、大分様相が変わります。
まず、コストが大幅にダウンします。
それから、現状単価設定が販売楽譜より高いので、その分作曲家や出版社への還元率が高くなります。
更に、中古品販売、違法コピーのリスクが激減します。
レンタル楽譜だけで現在生活できている作曲家がどのくらいいるか知りませんが、販売楽譜よりずっとマシなことは確かで、だからこそ最近レンタル楽譜会社が激増しているわけです。


……「販売楽譜に比べて高すぎる」。その通りかもしれません。
だけど、その販売楽譜が、どんなに厳しい商売であることか!
上の数字は、ちょっとJASRACのホームページを見て、吹奏楽業界の現状を知っていれば、簡単に計算できるようなものです。
それなのに、その計算もなく、ただ出版社や作曲家を「ボッタクリ」と責める論調を見ると、本当に悲しくなります。


芸術の本来の姿は、本当にお金がかかるものです。
だからこそ歴史的に、芸術が発展するためには、つねにパトロンが必要だったわけですが…。

勿論、自分の作品を広めるため、敢えて安価で自分の芸術を「販売」することはあります。
でも、それは、例は悪いですが、強いて言えば、スーパーの「本日の特価」とたいして違いはありません。
利益がほとんどない安売りの商品でお客さんの注意をひいて、他のものを一緒に買ってもらって利益を上げる、というやつです。
(現実には、そんな戦略が選べるほど恵まれた環境の作曲家はほとんどいなくて、もう出版社からオファーがあったら有り難くお願いする、って形だと思いますが)

スーパーに置いてある野菜すべて本日の特価にしたら、当然店は潰れるでしょう?
「レンタルは高すぎる、販売楽譜より高いのはおかしい」というのは、私には、「他の野菜は高すぎる、全部本日の特価と同じレベルにしろ」と言っているようにしか聞こえません。


しかし殆どの作曲家の皆様は、大変奥ゆかしくていらっしゃるから、そういう暴言は吐かない(笑)。
そして、本気で、もし可能なら楽譜を出版して欲しい、と思っておられます。
それはやはり、どんなに利益が薄くても、皆に演奏してもらいたいから、だと思うのです。
皆に自分の曲を演奏してもらえるなら、楽譜を出版して、収入の足りない部分はなんとか副業でやりくりすればよい、と思っている方も大変多いです(まあ、私の身近にいる作曲家もそのクチですが)。

それはそれで、私は大変立派だと思いますが、だからって、曲を利用する側が、「もっと安い楽譜もあるんだから、他の曲も全部その価格で提供して下さいよ」というのは、あまりにもあつかましいお願いじゃないのか?と思う訳です。

心を豊かにするもののために、その価値に見合ったお金を払うのは当然だと思うし、逆にその価格が見合わないと思うなら、お金を払わなければよい(実際、楽譜のミスが大変多かったり、この編曲にこの金額はちょっと……というようなレンタル楽譜もあるようですから)。
それは、借りる人が自分の心の中の価値観に照らし合わせて決めればよいことで、基本的に、他と見比べてディスカウントを要求するような類いのものではない、と思うのです。


中学、高校の小さなバンドにとって、30000円強のレンタル楽譜代金は、予算的に大変厳しい。それは、その通りだと思います。
しかし、実は30000円って、30人編成のバンドだったら一人1000円の負担なんですよ。
しかも、一回借りたら多分半年は使いますよね。
子供達に小遣いから払えと言うかどうかはともかく、大人の視点からみて、半年分の情操教育に千円費やすことがそんなに高いでしょうか?
今時の中高生、普通にケイタイやスマホで遊んでますが、その通信料の方がよっぽど高いんじゃないでしょうか(笑)。

勿論、ご家庭は千差万別、修学旅行の積立金を集めるのも苦労しているのに、クラブのために一律千円負担なんて無理!という声もあるかもしれません。それはそれで良いと思います。

しかし、だから、「レンタル楽譜は学校現場の状況をわかってない」と大人が決めつけてしまうと、それは、みすみす、目に見えない、形のない価値にも価格が存在するのだ、という非常に大切なことを子供達に教える機会を逃しているようなものです。

たとえば、一部でも学生達に資金捻出させるとか、だめなんでしょうかね?
コンクールまで、部員全員が毎週10円貯金でもいいし、あるいは、募金箱下げてPTAまわりをして、楽譜代寄附してもらうでもいい。

中学はともかく、高校生ともなれば、アメリカではボランティア活動の一つや二つ、やって当たり前の年齢です(でないといい大学に行けませんからね!)。募金のお願いキャンペーンなんか、お手のものです。
そのくらい、部員の中から声が上がってやったって、ちっともおかしくないと思います。
地元のイベントに演奏参加して、楽譜代募金お願いします! 私達をコンクールに行かせて下さい! と箱を置いておく、とかね(笑)。

先生が正しく著作権教育をして、形のない音楽でも、楽しむためには対価を支払うべきなんだ、ということが子供達にきちんと伝われば、きっと演奏したい曲の楽譜を手にいれる為に自分達が何をすれば良いか、議論が始まると思います。

そうやって自分達でためたお金で借りた(買った)楽譜で、コンクールの檜舞台に乗る。
子供達にとっては、きっといい記念になると思うんですが、どうでしょうか。



※追記

一部のオケ譜レンタルは、本当に目ん玉飛び出るほど高いです。
この場合は、上の議論はあてはまりませんね。中高生のお小遣いじゃ絶対無理(笑)。

著作者や楽譜会社はなにをぼったくってるんだ、と思うかもしれませんが、作曲者の著作権が生きている楽曲に関していえば、もしかしたら別に理由があるかもしれません。
たとえば、アマオケには演奏してほしくない、とか(笑)。

商売のことだけ考えれば、何十万もの単価をつけるより多少単価を下げても数さばいた方が収入は上がります。それなのにわざと高い値段をつける理由のひとつには、演奏レベルのコントロールが考えられます。
プロオケレベルのオケでないと、自分の曲をまともに表現してもらえず、結果として、自分の作品が誤解される、と思ったら、ぶっちゃけ単価を滅茶苦茶高くすればいいのです。
そうすれば、多分よほど資金潤沢な(つまり演奏でそこそこの収入が得られるレベルの)プロオケ以外は手を出さないでしょうから。

実際、自分の曲がどのように演奏されるかは、作曲者にとって死活問題です。過去の歴史をひもといても、今日名曲と言われる曲が、初演時にまずい演奏をされたために酷評され、何十年もお蔵入り、なんてエピソードが山ほど転がっています。
だから、お金にはうるさくなくても、自分の作品が表現されたときの仕上がりは大変気にする、という作曲家は、結構多いのです。

もともと、レンタル楽譜が生まれたきっかけは、そういうものだったかもしれませんね。
作曲者が許可した団体にしか演奏させない、というのは、曲が生まれた瞬間に生じる著作者の権利です。
そう考えると、芸術の公表形態としては、むしろレンタルの方が自然なのかな、と思います。


一方、既に著作権が切れているのにレンタル譜が高い! という場合は、単に楽譜出版社のカタログ商売のしわ寄せを食っている、ということでしょう。
(カタログ商売というのは、一部の売れ筋、もしくは利益が高い商品から得た利益で、その他大多数の赤字商品を提供する販売形態。利益はとれないけど世の中に公表したい商品が沢山あるような分野、たとえば楽譜、CD、本なんかはこれにあてはまります)

著作権が切れているのだから、理屈をいえば、一度楽譜を借りて、それを自分でFinaleかなんかで浄書してしまえば、あとは完全に自分のものになります。
問題は、その手間をだれがやるか、です(笑)。
他にもっと安くで楽譜を提供する出版社がないのなら、多分そこまで手間をかけても収入が見合わない、ってことなんでしょう。

逆にいえば、「この曲結構演奏されてるのにレンタル高い!」という(著作権切れの)作曲家の作品をみつけたら、自分でPDF楽譜出版社を立ち上げてそこより安くで貸す、って手もあります。
これなら、最初の楽譜レンタルにウン十万払えば、あとは元手殆どタダで事業が出来ます。もとのレンタル料がバカ高いから、半額でレンタルしても結構いい収入になるんじゃないでしょうか。
おお、なんか濡れ手に粟って感じ!!!(笑)

……といっても、日本は版面権が保証されてないから、日本でやるとあっという間にネットでコピーをばらまかれて事業いきづまる、ってオチが多分つくと思いますけどね(笑)。