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渡米生活。(日記)

渡米生活。本家から切り離しました。あまり渡米生活に関係のないプログラムネタや音楽ネタなど。

楽譜のコピー問題

最近楽譜の著作権や版面権について色々調べる機会があったので、ちょっとばかし考えたことなど。

楽譜をコピーするのはダメですよ、というのは、趣味で音楽をやっていて、ある程度の年齢がいった人ならまあ一度は聞いたことのある話だと思います。
しかし、世の中にはそんなことをまったく気にしていない層がいることも事実です。

最近は「楽譜コピー問題協議会(CARS)等の啓蒙活動のお陰で、数十年前よりは随分マシになっていると期待していますが、たとえば大学オーケストラなんかは惨惨たるもののひとつです。昔の話ですが、ひとつの楽譜に3つくらいのオーケストラの蔵書印が押してあるコピー楽譜を見たことがあります。

大学生といったら一応大人の仲間入りはしていますが、まだまだ経済観念が希薄な年頃、そうやって売り物をコピーしちゃったら商売が成り立たない、会社が潰れる、というところまで、知識で知っていても実感として分からない人も多いですね。
「チケットノルマが高くなるから」という理由で借り物の楽譜をコピーし、選曲会議では著作権が現存している作曲家の曲は最初から取り上げない、というような意識では、趣味の活動を行うためには団員がもっとお金を払うべきだ、という結論にはなかなかなりにくい、というのが現状だと思います。
その点、まだ吹奏楽の団員の方が意識が高いかもしれません。
楽曲の著作権はほとんど現存しているし、楽譜をレンタルしても新しい曲をやりたい、という団体もそれなりの数がありますから。

では、どうすればそういう団体のコピーを止められるか?

楽譜のコピー問題を解決するには、演奏会場になるホール側で原譜を確認してもらい、原譜を所持していなかったら予約は受け付けない、というのが一番手っ取り早いと思う。

JASRACや出版社がやれることには限りがあります。演奏会の主催者に電話して「著作権使用料払ってますか?」というのはJASRACがやっていて、これは世界の基準から見てもかなり真面目に働いてくれている方です。しかし、流石のJASRACでも、全国津々浦々の演奏会にまで出向いて、コピー楽譜を使っていないか確認しろ、というのは無理があります。
そもそも、著作権が切れた作曲家についてはJASRACは管理してませんから、クラシックの楽譜の場合は、版面権(という権利は実は現状日本にはないのだけれど)を持つ出版社が頑張るしかない、ということになります。

(まあ、日本に版面権がないおかげで、実は著作権切れの楽譜の場合、日本では出版楽譜をコピーされてもそれを裁く法律がない、という話もあるんですが…。
ちなみに、海外出版の楽譜は版面権があることがありますから、日本でOKでもその出版社の国に入国した途端犯罪者ってことも有り得ますのでご注意を。
なお、版面権に関しては、あんなのは出版社が儲けるための口実で、パブリックドメインで万人に認められる自由が阻害されている、といった主張をする人もいますけど、常識で考えて売り物をタダでコピーして使って良い、と考える方が無茶だと私は思います。パブリックドメインなのは曲の内容なんだから、そこまで言うなら出版社の楽譜を見ながら自分でFinale入力でもして、そっちをコピるべき。)


だったら、JASRACや出版社は演奏会を行うホールに協力を頼めば良いのです。ホール側だって、人が足りない云々とゴネるところもあるかもしれないが、音楽専用ホールや自治体のホールなんかは、協力してくれるところもあると思う。

でも、多分、そんなこと、とうに当事者の方々は気づいてるよね(笑)。

……実は、この方法には、致命的な問題があるのです。
それは、ちゃんと楽譜を買って使っている団体でも、大抵本番に譜面台に載っているのはコピー譜だということです。

ホール側が取り締まるとなると、何がダメで何がOKなのかを明確にしなければなりません。原本はきれいなままとっておいて、コピーした楽譜に色々書き込みをして、本番はコピー譜を使う、というのは、著作権法に規定された私的使用に入るのか?

このへんまでくると、色々現行の著作権法の解釈が難しくなってきます。
著作権法第三十条によれば、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」での使用なら私的使用と認められる、と書かれています。

で、「CARSのページを細かく見ると、オーケストラ等の団内で使用するのは、この「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」とは認められない、という解釈であることが見てとれます。
(だから、パート譜が足りない場合はコピーしちゃダメ、追加でパート譜を買い足せ、ということになるわけですね)

これを真面目にとると、やはり書き込みしたかったら原譜に直接書け、コピーはまかりならん、ということになり、ホール側もそれで取り締まらなくてはならなくなります。

さて、著作者や出版社は、本当にそこまでしてコピーを禁じたいのか?


近年、とくに吹奏楽で、販売楽譜ではなくてレンタル楽譜の分野が急成長しています。
で、このレンタル楽譜に関しては、個人練習用の楽譜コピーを許可したり、パート譜が足りない場合にコピーして補充することを許可しているケースが増えてきているのです(演奏会後にコピーは破棄したり、原譜と一緒に送り返すことを条件にしているところもあります)。
ちなみに、何故レンタルなら割合に自由がきくか、というのはまた別の機会に書くとして。
実は、アメリカでは、販売楽譜でも、ライブラリアンが楽譜をコピーして団員に渡し、演奏会終了後に全部集めてその場でシュレッダーにかける、という形態が一般化しています。
もともとそのような下地があるので、レンタル楽譜も、最初から弦のみパート譜の複製を許可する、等の条件がついていることもあります。

この傾向を見ると、著作者や出版社は、多分本音では、正規に楽譜を購入した人々にまで厳密にコピーを禁じたいわけではないのだと思うのです。
ただ、コピーした楽譜の扱いには気を付けて欲しい。お金を払っていない人の手に渡ることがないようにして欲しい、ということなんだと思う。

実は、「私的使用」を超えた範囲のコピーについて、著作権法では「禁止」とはされていません。
そのかわりに、「著作権者の許可を得る」となっています。
ですので、上記のような場合のコピーについてどうするかは、実は法律を変更しなくても、もっと柔軟なものにできる可能性があります。
おそらく、現在JASRACと楽譜出版社も、どうすればもう少し時代に即したルールに変えていけるかを模索していると思います。

たとえば、最近スコアのみ印刷物で、パート譜はpdfファイルでCDに焼いてスコアと一緒に販売する、という形態の楽譜がありますが、この方法ですと、弦パート譜が足りない! という心配をしなくてよくなります。
(CDそのものをコピーしたり、ディスクにバックアップしたら「複製」になって、著作権法に書かれた制限を受けますので、ご注意。)
一方、ヤマハぷりんと楽譜などのデジタル楽譜販売では、人数分のパート譜を買え、という規則になっていることが多いです。これは、単価が1人あたりに設定されているからであると思われます。
紙の楽譜しかなかった時代には出来なかった実験を、今色々やっている、といったところでしょうか。

というわけで、個人的には、いつか楽譜の正規購入者は怯えずにコピー譜を使えるようになり(勿論他者への譲渡はダメ)、不正コピー楽譜撲滅のためホールの協力を得られるようになったらいいんじゃないかなーと思うのですが、どうでしょうか(笑)。